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「たけちゃん、今日の釣りはダメかなぁ?」
「うぅん・・空は明るいだけどなぁ・・」
 生憎の雨ですね。今日は止めた方がいいかも知れませんよ。
バンガローへ向かう車中、ずっと気になっていたんですがね、やっぱり雨が落ちてきてしまいました。
 「ロイちゃん、明日に賭けよう。朝なら降ってても大丈夫だで。」
 「はい、そうですか・・・」
 ロイちゃん、ごめんね。そんなに切ない目で雨雲を見上げないでよ。明日はきっと、雨が降っても釣るからね・・・
 夕釣りは日没まで渓で遊ぶんです。
 今回遊ぼうと思っている渓は、入る場所が1ヶ所しかないんです。出る場所は半日も釣り登った先にしかありません。チョイ釣りの場合、渓沿いに戻るしかないんですよ。薄暗くなって、しかも雨の中を戻るのはやっかいですからね。仕方ありません。今日は諦めましょうか。
 楽しみは他にも沢山ありますよ・・・ね、ロイちゃん。
 
♪チャッチャラーッチャラッチャ・・・おや?携帯電話が・・・
着いたかな?ふふふ。
 「もしもし、たけちゃん、役場の辺りで迷っちゃったよ。」
 「あはは、迎えに行くから役場で待ってなぁ。」
 「よろしく。」
 さて、迎えに行ってきますね・・・・・
 「よお、ロイちゃん、久しぶりだねぇ。」
 「この間はどうも、ご無沙汰してます。ははは。」
 役場辺りで迷った来客はロイちゃんの釣友ですよ。
 その名は、「東京海賊太公望」あははは。
 太公ちゃん、先日は東京有明でロイちゃんと夜中までヘチ釣りを楽しんだんだね。でね、その後の太公ちゃんの行動力がすごいんですよ。
 有明でロイちゃんを見送った太公ちゃん、寝る間を惜しんで明け方に出航したんです。「東京海賊釣法」で、あっさりと黒鯛を釣り上げ、信州へとロイちゃんを追いかけたんですよ。片道300km・・・
 そして今、黒鯛を片手に家族連れでバンカローへ到着したんです。
 「ロイちゃん、持ってきたぞ。」
 「うわっ、でかいね。50cmくらい?」
 「いや、ちょっと欠けるかな。刺身でいけるよ。」
 太公ちゃんの奥さん、器用に黒鯛をさばいてくれましたね。さすがに海賊の奥さんだ。ははは。
 
信州の山奥、しかもキャンプ場で黒鯛の刺身ですよ。それも釣りたて直送便ですからね。こんな贅沢はありませんよ。
黒鯛を楽しみながら、男達は釣り談議、奥さん達は・・・何を話しているのかな?子供達ははしゃぎ回っていますよ。
 「ほら、こんなの生えてたよ。」
 おや?pesoがワラビを採ってきましたね。
 「湯がいて食べようか。」
 「さすが山賊pesoさんだな。」
 「あはははは。」
 
ロサンゼルスのロイちゃん一家、東京の太公ちゃん一家、信州の私達夫婦。
海の恵みと山の恵みを囲んだ贅沢な時が流れています。
 「たけちゃん、ネットってすごいな。何の接点もない家族がこうやって集まれるんだな。」
 「そうだな、使いようだな。それにしても太公ちゃん、よく来たで。」
 「だって、ロイちゃんが黒鯛を見たことがないって言うからさ・・」
 「それだけで来ただ?」
 「あぁ、ロイちゃんに黒鯛を見せに来たんだ。」
 海の恵み 海にありき
 山の恵み 山にありき
 人の恵み 人にありき
 愛すべきは友
 敬すべきはその心
 
  
 つづく     
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