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雨は上がりましたよ。東の空にはオレンジ色の雲が浮かんでいますね。草木は鮮やかな緑色に濡れ、私達を歓迎してくれているのでしょうか。ロイちゃんと立つ渓はまだ薄暗く、瀬音だけが辺りを支配しているようです。
「ロイちゃん、ここだで。」
 「綺麗なところだね・・・たけちゃん、釣れるかなぁ。」
 ロイちゃんに履いてもらった私のバカ長は、照れくさそうに苔生す岩を踏みしめていますよ。
 「大丈夫だよ。きっと会えるで。」
 「たけちゃん、宜しくご指導くださいね。」
 いや、ご指導だなんて・・・
 どこまでも真っ直ぐで・・・ちょっとだけシャイで・・・それでいて釣りに対する情熱を感じてしまうロイちゃんの瞳を受け止めるのが精一杯だよ。
 「ロイちゃん、こうやって流すだで。上流からそっとな・・・毛鉤を引っ張らねぇでな・・・こうやって・・・な。」
 「うん・・・うん・・・」
 「はいよ、ロイちゃん、やってみなぁ。」
 「うん・・・」
  
 
思った通りですよ。ロイちゃん、とっても素直な人だね。私の言った通りに毛鉤を流していますよ。これならきっと・・・
シャッ!!
 えっ!!??
 クククッ!!
 「よしっ!来たでや。」
 ロイちゃんが竿をたたみながら引き寄せたのは可愛い岩魚ですねぇ。ロイちゃん、上手い上手い。提灯毛鉤初体験、3投目ほどでしょうか、あっさりと岩魚ちゃんに会ってしまいましたよ。
 「たけちゃん、釣れちゃった。ははは。」
 「凄げぇでやぁ。よかったなぁ、あははは。」
 糸を摘んで振り返るロイちゃんは満面の笑みですね。摘んだ糸の先には元気な岩魚が腰を振ってますよ。
 ・・・ロイちゃん、オラァこんな笑みが見たかっただよぉ。岩魚ぁ片手にはしゃぐロイちゃんが見たかっただよぉ。オラァ、もう、満足だでぇ・・・
 「あっ・・・」
 元気に腰を振る岩魚は自分で毛鉤を外し、ロイちゃんの足元へ・・・渓に落ちた岩魚はもの凄い勢いで家へ帰って行きましたね。
 「あらぁ、たけちゃん、やっちゃったぁ・・・ははは。」
 「あっはっはぁ、オートリリースだでやぁ・・・あっはっはぁ。」
 
「たけちゃん、小さい岩魚だったから手で掴もうかどうか迷っちゃったんだ。」
・・・いいだよ、それで。それがロイちゃんの釣りだでねぇ・・・
 
「さぁ、ロイちゃん、どんどん釣り遡るだよ。お天道様が元気になるまでが勝負だでな。」
「うん。」
  
  
 
釣り遡るロイちゃんを見てただよ。下流から、ロイちゃんの釣りを見てただよ。
腰を屈めてなぁ、そおっと岩魚に近づく姿を眺めてただ。
 時折振り返るロイちゃんはな、笑ってたり怪訝な顔ぉしてたりなぁ・・・釣りしてただよぉ・・・うん・・・釣りをしてただなぁ・・・
 ロイちゃんの真っ直ぐな気持ちが伝わったんだずなぁ・・・渓は少しだけのご褒美をロイちゃんにくれただよぉ・・・
  
 
ロイちゃんの釣りが思い出させてくれただ。
ボンおじちゃんの言葉を思い出させてくれただよ。
 「なぁ、たけぇ。岩魚ぁ釣るのは毛鉤じゃねぇどぉ、人が釣るだどぉ・・・」ってなぁ・・・・・・・・
 つづく     
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