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再会〜前編〜
2003/07/01

里を行く川は穏やかな顔で流れていますね。
山裾に沈む夕日は柔らかな空気で私達を包み込んでくれますよ。
気持ちのいい夕暮れですねぇ。
テンカラ竿を手に、そぞろ歩きを洒落てみましょうか・・・

ほら、納竿のタイミングを逃してしまったのか、それともマズメも狙うのでしょうか、長竿を手に鮎師が一人、二人、川に立ち入っていますね。
毎年、川沿いの土手越しにチラホラと見える鮎竿の穂先が、夏を連れて来てくれるんですよ。
へ〜、鮎はまだ石に付いていないようですね。岸辺の緩い深みを狙っていますよ。友釣りにはまだちょっと早いんですかねぇ。

鮎師さんの邪魔をしないように、もう少し上で私達も竿を出しましょうかね。
この辺りには山女魚も棲んでいるんですよ。
もうこの時期には瀬に出てるでしょう。きっと物凄い勢いで、毛鉤に跳びついてきますよ。
さあ、始めましょうか・・・
ヒュッ、ポトッ、スゥ〜ッ・・・ヒュッ、ポトッ、スゥ〜ッ・・・
あらら、来ませんねぇ。鮎師さん達が歩いた後なのかなぁ。
ヒュッ、ポトッ、スゥ〜ッ・・・まいったなぁ。気配がないですよ。これは釣れませんね。もう少し上へ行ってみましょうか。
ここからは土手の影になって見えませんがね、ほら、あそこで川が曲がってるでしょう?あの向こう側にもいいポイントがあるんですよ。
散歩がてら、行ってみましょうよ。

おや?誰か釣ってますねぇ。はは、しかもテンカラですよ。あの人が釣り上がった後だからダメだったのかなぁ・・・山女魚はみんな隠れちゃってるかもしれませんね。
あ、私達に気付きましたねぇ。
「ん?タケちゃんかや?」
・・え?どちらさん?・・
「憶えてねぇだずなぁ、こんなん小ちぇえ頃だもんなぁ。」
・・はぁ・・
「さっきな、キーちゃん家に寄っただわ。そしたらな、今日あたりタケちゃんが釣りに出てるかも知んねぇってからな、来てみただわぃ。」
・・キーちゃんって、お袋?・・
「あははは〜、まだ分かんねぇかやぁ?ボンだでやぁ。」
・・ボン?・・・ボン・・・え?ボンおじちゃん?・・
「思い出したかやぁ?ははは。」
ボンおじちゃんは、親父の友達でしてね、私が子供の頃に可愛がってくれた人なんですよ。
「いや〜、分かんなかったっすよぉ。だって何年ぶりになるんだか・・・」
「あはは、俺が東京に出たのはタケが寝小便たれてた頃だかんなぁ。」
・・ありゃ・・・そんな・・・おじちゃん、方言が抜けないねぇ・・
「ボンおじちゃん、オラァん家すぐそこだで、寄ってかねぇ?」
「そうさなぁ、タケの嫁の顔でも拝んで、一杯貰ってくかやぁ。」
・・はは・・・カミサンの顔ったって、おじちゃんも知ってるよ・・

30年・・・いや、もっと時は経っているでしょう。私もカミサンも中年の仲間入りをしていますし、ボンおじちゃんは、もうお爺ちゃんになってますよ。
でもねぇ、お酒がすすむにつれ、昔に戻っちゃうんですね。
「タケ、まだテンカラなんやってんのか?」
「うん、面白れぇかんなぁ。おじちゃんも、まだ現役だず?」
「ふん・・・どう、タケの毛鉤見せれやぁ。」
「うん、おじちゃんの毛鉤みたいにゃ釣れねぇでぇ・・・こんなんだわ。」
「ほ〜ぅ、えらい洒落た毛鉤だなぃ。こりゃぁ、フライの毛鉤だずぅ?」
「うん、ほいでも昔の毛鉤に近いほうだでぇ。」
「ほ〜ぅ、なるほどな〜・・・ふ〜ん・・・」
あれれ?何だか面接試験を受けてる気分になっちゃいましたよ。う〜、緊張してきちゃった・・・
「まっ、いいわぃ。タケ、明日ぁ暇か?」
「うん、午後なら空いてるで。」
「ほうか、ほいじゃぁ午後、釣りぃ行かず。今日は兄貴ん家に泊まるで、明日迎えに来るわなぃ。」
「うん・・・待ってるね・・・」

ボンおじちゃんを兄さんの家へ送り、明日の釣りを楽しみに布団に入れる筈なんですがねぇ。
何か気になるなぁ・・・あの言い方・・・
ボンおじちゃん、何を思ってるのかなぁ・・・

 

・・その夜、私は久しぶりに親父の夢を見ました・・・

つづく