山人、海を行く〜徴候〜
2003/01/31

濡れ鼠と化した私の手元には、竿とリール、ウキとサルカンとハリス。どうしよう・・・鉤も無くてどうやって釣るんだぁ?あんな怖い思いをしてまで磯に渡ったのに、竿も出せないの?あんまりだ〜ぁ。
「大丈夫ですか〜」磯の反対側から顔を出し、私の脳味噌をパニックから救ってくれたのは研究会の方です。
「はい・・な・何とか・・・」
見上げた私の顔は、やっぱり泣き出しそうな顔なんでしょうかね。
「今、中さんを呼んできますから、そこで待っててください。」研究会の方は岩の影に消えましたよ。 「はぁ・・」よかった。中さんが来てくれますよ。そうだ、中さんに心配をかけてはいけませんね。深呼吸でもして、平静を取り戻しておきましょうか。スゥーッ、ハァーッ、スゥーッ、ハァーッ。

「大丈夫かやぁ?オイ達も初っ端からえらい目に会ったなぃ。アハハ〜」磯を迂回するように、中さんが来てくれましたね。おや?荷物も持って来ちゃいましたよ。
「オイ達二人だけじゃぁ寂しいだず?オラァもここで釣るからなぃ。ありゃぁ?たけちゃん、みんな流されちまっただかぁ。まあ、いいわい。足んねぇもんはオラァの貸すで、幾らでも使えやぁ。たけちゃん、いつまでも泣きっ面してねぇで楽しめ!楽しめ!折角、遊びぃ来たんだで!」・・やっぱり泣きっ面だったんだ・・
「中さん、ありがとう。」ドドーン!波の音に、私の言葉は、また掻き消されたようです。

そうですよね。中さんの言う通り。折角、遊びに来たんですから楽しみましょうね。中さん!仕掛けとオキアミ、お借りしま〜す。

さて、仕掛けも出来上がりましたね。さあ、記念すべき沖磯第1投ですよ。あっ、ちょっと待った。コマセ、コマセ!コマセを撒かなきゃね。ここで焦ってはいけませんよね。コマセを撒いて、お魚さんを集めなければ。どれどれ、柄杓に詰めて、初コマセ撒きです。ムフフ・・・ワクワクしますねぇ。昔かじった事のある野球を思い出して・・・
「エイッ!」ベチャッ!ありゃ?コマセは海にも届かず、足元に叩き付けられてしまいましたね。おかしいなぁ。よ〜し、もう一度。「エイッ!」ベチャッ!アララ、また同じですねぇ。何か変ですよ。私のイメージはね、柄杓から勢い良く飛び出したマキエがサラシの脇にナイスピーッ!なんですけどねぇ。

「たけちゃん、下からヒョイッて撒きゃぁいいだよ」アハハ、中さんに見られていたようですね。以前、テレビで見た時はオーバースローで格好良く投げてたのにねぇ。アンダースローなんて、投げた事ないですよ。私、センターだったんですから・・・まあ、中さんの言う事を聞きましょうね。なんてったって今日は二度も助けられてますからね。それでは、アンダースローで・・・
「トリャッ!」はりゃ?コマセは空高く舞い上がり、私の頭上で花火のように広がります・・綺麗だなぁ・・ペタペタッ!うわぁ、メガネにくっついたぁ。なんだぁ?センターフライかぁ?いやはや、こんな所で宇野クンの顔面キャッチをするとは・・情けない。う〜ん、こんな筈はありませんよね。よし!もう一度。

「ソリャッ!」あら〜、またセンターフライだぁ・・逃げろ、逃げろ。コマセのシャワーはもうイヤだ・・ 「あにやってるだかなぁ、たけちゃん。オイはフライ得意だねぇか。ちっとは頭使えやぁ」

は?中さん、フライですか?何でフライとコマセ撒き?大好きな中さんですけど、ちょっと飛躍しすぎではないですかねぇ。そもそもフライは軽い毛鉤を重いラインの力を借りて飛ばすんですよ。フライラインを使ったテンカラも同じですよね。後ろに跳ね上げたラインを一呼吸置いた感じで優しく頭上から振り込む・・・う〜ん、ちょっと待って下さい。優しく頭上から振り込む?頭上から優しくねぇ・・フフフ、解っちゃったような気がしますよ。とにかく試してみましょうね。

コマセを杓って、優しく頭上で「ヒョイッ」おっ!飛んだ!サラシの脇には程遠いんですが、コマセは団子状で着水しましたね。やった!成功ですよ。コマセ撒きは野球ではなく、テンカラだったんですね。もう一度、撒いてみましょうか。「ヒョイッ」おぉ〜!良い感じですね。同じ所に着水しましたよ。残るはコントロールですね。これもテンカラと同じ。数を投げて習得するものなんでしょう。

おや?見て下さい!コマセを撒いた所。あれは魚でしょう?底から湧き出るように、コマセの中に突っ込んでは底に帰って行きますね。スゴイ!スゴイ!よ〜し、もっと集めちゃいましょうか。「ヒョイッ」「ヒョイッ」うわぁ、バーゲンセールのオバチャンみたいに群がってきますね。海って、こんなに豊かなんですね。嬉しくなっちゃいますね。フフフ・・今日は初心者の私が竿頭ってか?
「ハハハ〜!たけちゃん、木っ端ぁ集めたなぃ。よ〜し、よ〜し!」
何やら中さんが上機嫌ですよ。訳は知りませんが、良い事じゃないですか。今日は皆でたのしみましょう。折角、遊びに来たんですからね。 よ〜し、釣るぞ〜!

つづく