兄ちゃん・・・にいちゃん・・・
オラァにはな、兄ちゃんがいただよ。

「たけぇ、起きれやぁ。釣りぃ行くどぉ。」
「んん・・・眠みぃよぉ。」
「お天道様ぁ昇っちまえば岩魚なん釣れねぇでやぁ・・・しょうがねぇなぁ・・・着替えさしてやっから、起きれや、ほれ・・・」
「・・・んんん・・・」

オラァ小学校に上がる前の話だで。 兄ちゃんと暮らしてたことがあるだよ。
兄ちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんは、オラァのお父ちゃんとお母ちゃんだっただよ。

「ほぅ、たけぇ、釣ってみぃ。」
「うん。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・兄ちゃん、釣れねぇやぁ・・・」
「どぅ、竿ぉ貸してみぃ・・・こうやってなぁ・・・」
バシャッ!!
「ほれ、いたどぉ。」
「わぁ・・・岩魚だでやぁ・・・」
「そっさぁ、この辺りは岩魚っきりだでな。」

お天道様が昇るとな、兄ちゃんは学校に行っちまうだよ。
オラァ兄ちゃんが帰るのを待ってるだ。
縁側に座ってな、畑を眺めるだ。
ナスとキュウリとトマトがお天道様を浴びて眩しいで。
ずっと向うにはトウモロコシのチョンマゲがふわふわ揺れてるだよ。

ドカッ!バタバタバタッ!!
「たけぇ、遊びぃ行くどぉ。」
あっ、兄ちゃんが帰ってきたで。縁側の下に潜って虫ぃ捕って遊んでるオラァに気付かねぇで、縁側を走り回ってるでやぁ。
「兄ちゃん、お帰りぃ。」
オラァ縁側の下から顔を出すだ。
「うぉっ、おどけたぁ。そんなとこであにやってるだぁ。」
「きゃははは、兄ちゃん、おどけただぁ?」
「おぅ、おどけたでぇ。」
「きゃははは。」
兄ちゃん、毎日おどけてくれたでなぁ・・・

小学校に上がる時、オラァ引越しただよ。
オラァの親父とお袋がバスん乗って来ただわぃ。
親父とお袋、お父ちゃんとお母ちゃんは奥の座敷で話し込んでたで。
オラァ、縁側で兄ちゃんと温ったけぇトマトかじってただ。
オラァ、なんも知らなかっただよ・・・なんも、わかんなかっただ・・・

親父とお袋に手ぇ引かれてな、縁側からスルッと庭先に降りただよ。
「どこ行くだぁ?」
オラァお袋を見上げただ。
「家へ帰るだで・・・」
お袋は優しい顔で答えてくれたで。
「・・・ふぅん・・・」
オラァ、なんもわかんなかっただよ。

 

今でも頭の奥、ずっと奥底に残ってるだわぃ。
「・・・ばかやろ・・・」
兄ちゃん、縁側に座ったまま下ぁ向いて、トマトを握りつぶしてただ。
オラァ振り返っても、兄ちゃん、縁側に座って下ぁ向いたまんまだったで。

オラァなんもわかんなかっただよ。
にいちゃんは・・・

画像は hinagataya's photosよりお借りしました・・・ひなぁ、ありがとなぃ・・・