蝗、稲子、イナゴ。田圃の側に住んでりゃぁ知ってるわなぃ。夏から秋に出てくるバッタだわぃ。
ははは、田舎もんなら、もう解ってるわなぁ。稲子の佃煮さぁ。婆ちゃんがよく作ってくれるんだわ。子供ん頃ぁおやつ代わりだったしな、酒の肴にもなってたんだで。
婆ちゃんはな、稲子ぉ米袋一杯に捕ってくるだよ。汗かいてな、夕方に帰ってくるだんだわ。稲子の詰まった袋ぉ勝手口に下ろしてな、大ぇっけえ鍋に湯ぅ沸かすんだわ。婆ちゃんが一服してるうちに湯ぅ沸いたで。「さぁて、茹でるかなぃ。」婆ちゃん、稲子ぉ熱湯ん中入れて蓋したで。バタバタバタって稲子が鍋ん中で・・・いやぁ、オラァ子供ん頃ぁ怖くてなぁ、逃げてたわい。茹で上がった稲子はな、天日干しするか乾煎りして乾燥させんだわ。あとは佃煮にすりゃぁいいんだわ。

「タケは稲子ぉ食わねぇだか。」
「婆ちゃん、足が口ん中に刺さるだよ。痛ぇやぁ。」
「そうかぁ、じゃあ足ぃ取ってやんなぁ。」
婆ちゃん、1匹づつ足ぃ取ってオラァに食わしてくれるんだわ。
「タケェ、今度ぁ稲子味噌ぉ作ってやんかなぁ。味噌にすりゃぁタケも食えるで。」

稲子味噌は旨いでぇ。佃煮にする前の乾燥した稲子の後ろ足を取るだよ。体は佃煮にするんだで。取った後ろ足を擂鉢で擂って、粉にするんだわ。そこに味噌、味醂、砂糖を入れてよく練るんだわ。これなら子供でも食えるでな。旨ぇどぉ。これっきりで2〜3杯はおかわりできるでぇ。

「タケは味噌っきり食っててぇ。おかずも食わなきゃダメだねぇか。」お袋に怒られたっけなぁ。婆ちゃん、ちっちゃい目で笑ってたっけ。