再会〜完〜
2004/01/30

東京の片隅に建つその家は、おじちゃんの印象とは程遠いものでした。 家を囲むブロック塀は地面に境界線を画き、冷たい表情で他者の侵入を拒んでいるようです。 門扉は少しだけ錆付いて、主人の不在の年月を語っているようですね。玄関先に吊るされた提灯の紋だけが私を迎えてくれているようです。
門扉を開けると、それはギュイーッと切なく泣きました。
「こんちは。」
「はい・・・あら、たけちゃん、来てくれたの・・・忙しいのにありがとねぇ・・・」 「おばちゃん・・・大丈夫か?」
「大丈夫よ。心配ないわ。」
「・・・そうか・・・]
「ね、たけちゃん、顔を見てやって。」
「・・・うん・・・」

・・・たけぇ、釣ってるかやぁ?・・・
・・・うん、釣ってるよ・・・
・・・そうかぁ、そりゃいいこったぁ・・・
・・・・・・・・・・
・・・東は変わってねぇだずなぁ・・・
・・・うん、あのまんまだで・・・
・・・よぉし、よぉし、いいこったぁ・・・
・・・・・・・・・・
・・・たけぇ、あんしただぁ?元気ねぇだねぇかぁ・・・
・・・だって・・・ボンおじちゃん・・・
・・・あっはっはぁ、心配すんなやぁ。オラァ、これから三途の川まで釣り行くでなぁ・・・
・・・・・・・・・・
・・・たけぇ、あんちゅう顔してるだぁ?らしくねぇどぉ・・・
・・・うん・・・ごめん・・・
・・・じゃな、オラァ行くで。とっておきの毛鉤で勝負だわなぁ、ははは・・・
・・・うん・・・

「たけちゃん、ちょっとこっち・・・」
「・・・え?・・・」
おばちゃんに案内された扉の向こうはテンカラ竿と竹魚篭と毛鉤の部屋でした。
ボンおじちゃんの匂いがしました。
「ね、たけちゃん、好きなのを好きなだけ持てって・・・」
「・・・・・」
「遠慮しなくていいのよ。もう、使う人・・いないんだから・・」
「・・・オラァ、いらねぇ・・・」
「どうして?おじちゃんの竿、あんなに欲しがってたじゃない?」
「・・・うん、でも・・・いらねぇ・・・おばちゃん、ごめんね・・・」

「たけぇ、オイはでっかくなったら何んなるだぁ?」
「オラァ、おじちゃんみてぇになる。」
「あっはっはぁ、そりゃダメだわぃ。」
「あんでぇ?」
「オラが釣るんはオラの岩魚だでやぁ。たけが釣るんはたけの岩魚だねぇかぁ、あっはっはぁ。」
「え〜?おじちゃん、あに言ってんだかわかんねぇよぉ。」
「そうかぁ?あっはっはぁ・・・・・」