有明の夜〜記念写真〜
2003/09/17

闇に隠れた有明は穏やかで、その向こうに浮かぶ灯りが微笑むように点滅しますよ。背には先程待ち合わせた建物が、私の興奮をよそに静かに佇んでいますね。水銀灯の光を首筋に感じながら、和竿を手にした私は3人の後を追います。太公ちゃんの話を聞いていたからでしょうか、zenさんもタカオちゃんも一緒だからでしょうか、有明が見知らぬ場所とは思えない不思議な親近感に戸惑ってしまいます。

「ここから釣りはじめようか。」
太公ちゃんに誘われながら、埠頭の縁に4人は並びましたね。
「では、講習会を始めようか。」
・・・よっ!待ってました!・・・
「いいかい?まずはね・・・。」
この時、私の目には太公ちゃんしか映っていなかったかも知れませんよ。初めて見るヘチ釣り、私が憧れた落し込みです・・・あ、失礼。私、まだ「ヘチ」「落し込み」「探り」の違いがわからないんですよ。
「餌が海面に入る・・・ゆっくりと一尋沈める・・・10秒待つ・・・アタリがなければ、また沈める・・・10秒待つ・・・この繰り返し・・ん?あれ?」
太公ちゃんの竿先が・・・ピクピクッ、プルプルッ・・・
「はは、釣れたね。メバルだよ。」
どっひゃあ、いきなり釣っちゃうかぁ?3人の講習生は目が点・・・なんとまあ、こんなに解り易い講習なんて滅多に受けられませんよねぇ。
「じゃ、みんなバラバラになって釣ればいいよ。」
さて、私はどこから釣りはじめましょうかね。
「向こうで釣ってもいいんだよね。」
お?zenさん、流石に慣れてますねぇ。もうポイントを決めていますよ。
「太公さん、すごいなぁ。お手本で釣っちゃったね(笑)」
ははは、タカオちゃん、掲示板やチャットと変わらないやぁ。
「ねえ、太公ちゃんは釣らないの?」
「後で、ルアーをちょっとね。どうするの釣法だよ。」
「あ、さっき教えてもらったやつだね。ふ〜ん・・・じゃ、オイラはここから釣るね。」

さて、いよいよですね。憧れ続けた第1投?第1落し?目ですよ。
・・・餌が海面に・・ゆっくりと・・待つ・・1、2、3、4、・・ブツブツ・・・
「たけちゃん、速いな。落とすのが速いと魚は食わないよ。」
・・・お、びっくりした。太公ちゃん、見てたんだぁ・・・
「こんな感じだよ・・・それでね、手首をこうして・・・」
・・・なるほど、うんうん・・・
「このままzenさんの方まで探って行けばいいよ。」
「うん、やってみるね。」
・・・ブツブツ・・最後はゆっくりと仕掛けを上げて・・2秒・・ブツブツ・・・
他人が見てたら何と思われたのでしょうかね。変なオヤジがブツブツ言いながら、時には数を数えながら埠頭に立っているんです。今日は空いててよかったですねぇ・・ははは・・
「たけちゃん、どう?」
・・・あ、太公ちゃん・・・
「まだ釣れないよ。でも、面白いね。」
「ふむ、タカオちゃんがメバルを2匹釣ったよ。たけちゃんも頑張れよ。」
・・・え?、オイラが探ったあとをタカオちゃんが釣ったの?すごいなぁ、タカオちゃん・・・

・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・
相変わらず太公ちゃんの教えを繰り返しながら釣っていますよ。まぁ、今日は釣り方を教えてもらいに来たつもりなんでね、釣れなくったって楽しめれば・・・コツコツ・・・
・・・ん?何だ?・・・
コツコツ・・ググ〜ッ・・・
・・・うわっ!来た!えっと、アワセはゆっくり沖へ・・・
大変ですよ。掛かってしまいました。魚はグイグイと和竿を撓らせてきますね。まだ見えない相手は私の足元で暗い海底へと逃げ暴れていますよ。
・・・どうしよう、こんなの引き抜けないよぉ・・・
「愛竿かよ」で岩魚を釣った経験があったので和竿を信じて耐えていると、彼は姿を見せてくれましたよ。
・・・えっと、玉網は何処だ?太公ちゃんは何処だ?・・・
「たけさん、玉網出す?」
・・・おぉ、タカオちゃん。天使に見えるぜ・・・
「うん、頼むわ。」
タカオちゃんと私、2人のタッグは見事銀色の彼を釣り上げたんですよ。
「やった〜、タカオちゃん、さんきゅ〜。」
「たけさん、やったね。みんなに見せに行こうよ。」
「うん。」
タカオちゃんの玉網に鉤の掛かった彼をいれたまま、太公ちゃんとzenさんの所に急ぎましょう。
「お〜、たけちゃん、やったな。誰かデジカメ持ってきてない?」
太公ちゃんが自分の事のように喜んでくれていますね。
「携帯でいいかな。上手く撮れるといいけど。」
・・・あ、zenさん、ありがとう。記念に撮ってもらえるかな・・・

「どうせなら竿尻とリールも入れようよ。」
「もっと明るい所の方がいいかな。」
「ちょっと待って、鰭をひろげようよ。」
いい歳のオジサンが4人、30cm程のセイゴ?フッコ?を真ん中に集まってワイワイ騒いでいますよ。
記念撮影を終え、リリースしましょう。まさか釣れるとは思ってませんでしたから、クーラーを用意してなかったんですよ。
「たけちゃん、やったねぇ。」
・・・太公ちゃん、ありがとう・・・
「たけさん、写真はメールで送るね。」
・・・zenさん、頼むね・・・
「僕の玉網、初めて使いました〜(笑)」
・・・え?ホント?お初がオイラの・・ごめん、タカオちゃん・・・

みんなに釣らせてもらったスズキ・・・はは、今回だけはスズキと呼ばせて下さい・・・今夜も、あの有明を泳いでいるのでしょうかね。私たちに出会った事も忘れ、小魚を追い掛け回しているのでしょう。
私にはとても忘れる事など出来ない「スズキ」なのですがね。

つづく