山の中 誰も知らない谷の底 大岩に独り握り飯・・格別です。でも、今日はチョット違う。大海原 ポツンと浮かんだ沖の磯 仲間と囲む握り飯・・気持ち良いですねぇ。 「中さん、でっけえの釣っただねぇ」 中さんが言っていたサラシはここですよ。まずは覗いてみましょうか。海面までは3〜4mでしょうか、切り立った磯際ですね。波は岩礁に当たり、白く砕けています。砕けた波は渦を巻くように足元に広がっていますよ。先程の場所とは随分と違いますね。荒々しい印象の磯際です。さあ、釣りましょう。 コマセを撒いても、朝のように感動的ではありませんねぇ。白く渦を巻く荒波が海中の様子を隠してしまいます。魚は寄っているのやら寄っていないのやら、まったく解りませんよ。さて、仕掛けを投入してみましょうか。「そりゃ」・・白い渦に飲み込まれた仕掛けは絡まないのかなぁ。ウキは渦に揉まれて見え隠れしています。これでアタリは解るのかなぁ・・・と、その瞬間・・・「来た!ヨイショ!」アワセを入れます。「あれ?軽い?」仕掛けを巻き上げれば、鉤にはオキアミがまだ付いていますよ。アタリではなかったようですね。ウキが渦に揉み消されただけのようです。なるほどね〜、よし、もう一度・・・「来た!ヨイショ!あれ?軽い。」あらら、これもアタリじゃないの? う〜ん、どうしましょう。困りましたねぇ。アタリが解らないのでは釣りになりませんよ。こうなったら、ウキが沈んでもアワセないでおきましょうか。中さんも「じっくり釣れ」って言ってましたよね。そうだ、ウキが沈んだら三つ数えてアワセるってのはどうでしょう。やってみましょうか。「そりゃ」・・・「来た!1、2、3、ヨイショ!ありゃ、また軽い」もう一度、「そりゃ。」・・・「来た!1、2、3、ヨイショ!は〜ぁ、ダメだ〜」 三つではアタリではないようですね。それでは五つにしてみましょうか。「そりゃ」・・・「来た!1、2、3、」ウキが波間に顔を出しましたよ。アタリではなかったのですね。よしよし、これで仕掛けを流せそうですね・・・「おっ?1、2、3、」まだまだですよ。ムフフ、釣りらしくなってきましたねぇ。ワクワクしてきましたよ。「おっ、また隠れた。1、2、3、4、5、ヨイショ!」グンッ!「ノッた!」グググンッ!グンッ!物凄い引きです。朝の引きとは段違いですよ。 ジジッ、ジジッ、海底へ逃げ込もうとする魚の強引な動きに、時折スプールからは道糸が引き出されます。竿を立て、道糸だけを頼りに魚の行方を追う私の視界に竿先が入ってきました。竿先は大きく、小さく、上下に震え、心臓を高鳴らせます。魚は白く巻いた渦に守られるようにその姿を見せてくれません。海面上には、まだ道糸しか見えません。慎重にリールを巻く手が震えているのは、暴れる魚のせいでしょうか。それとも、高鳴る心臓のせいでしょうか。じりじりとした時間が過ぎていきます。やがて海面から出てきたハリスは、左右に激しく走り回ります。「もう少し、もう少し。」頭の中で自分に言い聞かせていると、その黒い魚体は白い渦を割って出、反転!「うぉっ、のされる!」と感じた時には大声を出していましたよ。 「たけちゃん、あんした?」玉網を担いで助けにきてくれたのは、誠です。 「お〜い、そろそろ仕舞えや〜」1時過ぎ、中さんがやって来ましたね。 こうして、私の沖磯初釣行は幕を閉じます。臭みの強い「大物」をぶら下げて、Pesoの待つ我が家へと帰るんです。「大物」を囲んだ食卓は、賑やかでしたよ。中さんと、誠と、Pesoと、大と、私。船長のマル秘味噌がなければ、修羅場と化していたかも・・・始まりなんて、こんなもんですね。イスズミが切っ掛けになり、私の「追っかけ」が始まったんですよ。憧れのオナガを夢見て・・・ 完
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