山人、海を行く〜憧憬〜
2003/02/08

山の中 誰も知らない谷の底 大岩に独り握り飯・・格別です。でも、今日はチョット違う。大海原 ポツンと浮かんだ沖の磯 仲間と囲む握り飯・・気持ち良いですねぇ。
皆さん、コマセ臭い手で元気よく握り飯を頬張っていますよ。潮がどうだ、浮き下がどうした、風向きが・・云々。思い思いの話に花が咲いています。場所も時間も問わず、気の良い同好が集まれば話の尽きることはありませんね。

「中さん、でっけえの釣っただねぇ」
「お?まだまださぁ。裏じゃ、もっとでっけぇの釣ってるど」
ふ〜ん。磯の反対側では、良い型が出てるらしいですよ。
「オラも裏に行きてぇなぁ。釣り座ぁ変えちゃぁいけねえだか?」
「そんな事ぁねえけどな、やめとけ。たけちゃんが行ったって、立ってらんねぇど。釣りんならねぇわ。それより、あすこのサラシ釣ってみ。木っ端ぁこっち寄ってるからなぃ」
ふ〜ん、やっぱりサラシですか。
「たけちゃん、クセがあるなぁ。毛鉤のクセかやぁ。アワセが早いわ。唇で釣ろうなんて思っちゃダメだでぇ。アタリがあったらな、仕掛けぇ送り出すくれぇの気持ちで鉤ぃ飲ましちまえや」
ふ〜ん、鉤をねぇ・・飲ますねぇ・・
「サラシ行きゃぁ、さっきみてぇな訳んならねぇかんな。じっくり釣れや」
は〜い、そうしま〜す。昼食も終り、皆さんそれぞれの釣り座へ戻って行きます。さて、私達も始めましょうか。サラシへGo!ですね。

中さんが言っていたサラシはここですよ。まずは覗いてみましょうか。海面までは3〜4mでしょうか、切り立った磯際ですね。波は岩礁に当たり、白く砕けています。砕けた波は渦を巻くように足元に広がっていますよ。先程の場所とは随分と違いますね。荒々しい印象の磯際です。さあ、釣りましょう。

コマセを撒いても、朝のように感動的ではありませんねぇ。白く渦を巻く荒波が海中の様子を隠してしまいます。魚は寄っているのやら寄っていないのやら、まったく解りませんよ。さて、仕掛けを投入してみましょうか。「そりゃ」・・白い渦に飲み込まれた仕掛けは絡まないのかなぁ。ウキは渦に揉まれて見え隠れしています。これでアタリは解るのかなぁ・・・と、その瞬間・・・「来た!ヨイショ!」アワセを入れます。「あれ?軽い?」仕掛けを巻き上げれば、鉤にはオキアミがまだ付いていますよ。アタリではなかったようですね。ウキが渦に揉み消されただけのようです。なるほどね〜、よし、もう一度・・・「来た!ヨイショ!あれ?軽い。」あらら、これもアタリじゃないの?

う〜ん、どうしましょう。困りましたねぇ。アタリが解らないのでは釣りになりませんよ。こうなったら、ウキが沈んでもアワセないでおきましょうか。中さんも「じっくり釣れ」って言ってましたよね。そうだ、ウキが沈んだら三つ数えてアワセるってのはどうでしょう。やってみましょうか。「そりゃ」・・・「来た!1、2、3、ヨイショ!ありゃ、また軽い」もう一度、「そりゃ。」・・・「来た!1、2、3、ヨイショ!は〜ぁ、ダメだ〜」

三つではアタリではないようですね。それでは五つにしてみましょうか。「そりゃ」・・・「来た!1、2、3、」ウキが波間に顔を出しましたよ。アタリではなかったのですね。よしよし、これで仕掛けを流せそうですね・・・「おっ?1、2、3、」まだまだですよ。ムフフ、釣りらしくなってきましたねぇ。ワクワクしてきましたよ。「おっ、また隠れた。1、2、3、4、5、ヨイショ!」グンッ!「ノッた!」グググンッ!グンッ!物凄い引きです。朝の引きとは段違いですよ。

ジジッ、ジジッ、海底へ逃げ込もうとする魚の強引な動きに、時折スプールからは道糸が引き出されます。竿を立て、道糸だけを頼りに魚の行方を追う私の視界に竿先が入ってきました。竿先は大きく、小さく、上下に震え、心臓を高鳴らせます。魚は白く巻いた渦に守られるようにその姿を見せてくれません。海面上には、まだ道糸しか見えません。慎重にリールを巻く手が震えているのは、暴れる魚のせいでしょうか。それとも、高鳴る心臓のせいでしょうか。じりじりとした時間が過ぎていきます。やがて海面から出てきたハリスは、左右に激しく走り回ります。「もう少し、もう少し。」頭の中で自分に言い聞かせていると、その黒い魚体は白い渦を割って出、反転!「うぉっ、のされる!」と感じた時には大声を出していましたよ。
「タモー!タモー!タモォお願いしまーす!」
誰か来てくれ〜。こんなの引き抜けないよ〜。

「たけちゃん、あんした?」玉網を担いで助けにきてくれたのは、誠です。
「まこちゃん、掬ってくれや〜!のされちまう〜!」
・・また泣き出しそうな顔してるのかなぁ・・
「掬うったって、魚ぁ見えなきゃ掬えねぇで。もちっと寄せれや。」・・そりゃ、そうだ・・
誠が下ろした玉網に魚を入れるべく、「う〜ん、う〜ん、入れ〜」
「たけちゃん、そっちじゃねぇって。こっち!こっち!」
・・え?こっち?あっち?どっち?魚に言ってくれ〜・・
「う〜ん、う〜ん、入れ〜」超ド級初心者が2人っきりの大苦戦。それでも、この戦いは2対1。しかも、こちらには竿と玉網の強力兵器がありますよ。沈めた玉網の上を魚が横切る時、「おっしゃ〜!」大声と共に誠が玉網を縮めます。「やった〜!」誠と二人のハーモニー・・ゲロ、気持ちワル〜・・

「お〜い、そろそろ仕舞えや〜」1時過ぎ、中さんがやって来ましたね。
「ほ〜い、もう終りっすか〜?」大物をゲットした私は余裕綽々。
「たけちゃん、良い機嫌だなぃ。良い型でも上がっただかやぁ?」
・・フフフ、機嫌の悪い訳がない・・
「良いの、上がったっすよ〜。やっぱ、メジナはサラシっすね〜」
「お?たけちゃん、言うだねぇかぁ。イッパシの上物師気分かやぁ?どう、見してみぃ」・・見て驚くな〜、40オーバーだぞ〜・・
「うわ〜、でっけぇな〜。よく上げただねぇかぁ」・・オシッ!誉められた・・
「良い引きだっただず?こんだけのイスズミじゃぁなぁ」・・は?イスズミ?・・
「たけちゃん、持って帰るだか?」・・え?・・
「まあ、いいやぁ。船長ん家の味噌なら食えるわい」・・普通に食べられないの?・・
あぁ、悲しきは我が無知。

こうして、私の沖磯初釣行は幕を閉じます。臭みの強い「大物」をぶら下げて、Pesoの待つ我が家へと帰るんです。「大物」を囲んだ食卓は、賑やかでしたよ。中さんと、誠と、Pesoと、大と、私。船長のマル秘味噌がなければ、修羅場と化していたかも・・・始まりなんて、こんなもんですね。イスズミが切っ掛けになり、私の「追っかけ」が始まったんですよ。憧れのオナガを夢見て・・・

山人、海を行く