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おつり
2002/12/17

安曇は、山深く水豊かな村ですよ。槍ヶ岳、穂高岳の雪代は、数知れない流れを生んでいます。名も無い流れ達は梓川に入り込み、上高地を眺めながら霞沢岳を迂回するように梓湖へ辿り着きます。梓湖でゆっくりと休んだ流れ達は、稲核ダムを落ちると村内を下ります。役場の下流、農協の橋で出合うのが、島々谷川なんです。

島々に入って暫くすると、左側に游魚券を売っている民家があるんですよ。手書きの看板は見落しがちですが、そこで日釣券を買いましょうか。気の良いおばちゃんが玄関先で迎えてくれますよ。世間話をしながら500円を払って日釣券を作ってもらう頃には、「気を付けて釣って来てね。」って目尻を優しく細めてくれるんです。さて、今日もいい一日になりそうですね。そろそろ出かけましょうか。「行って来まぁす」

しばらくは平瀬が続いてますね。落ち込みが始まる、もう少し上流から釣り始めましょうか。島々は奥深いですよ。川沿いの林道を散歩気分で歩きましょう。今日は連休だからかな、ハイカーが多いですね。この林道はね、南沢沿いに続いてるんです。岩魚止め小屋を過ぎ、徳本峠を越えて上高地まで続いているんですよ。明治時代、宣教師として日本に来たイギリスの登山家、ウォルターウェストン(Walter Weston)が開いた道らしいんです。なんでも、日本アルプスを始めて踏破した人だそうです。登山好きの人なら知ってるかなぁ。上高地にはウェストン碑がありますし、ウェストン祭ってのもあるそうですよ。さて、そろそろ良い落ち込みが始まってきましたねぇ。ハイカーさん達とお別れして、私達は谷に降りましょう。

今日はテンカラですよ。昔ながらの毛鉤釣りを充分に満喫しましょうね。とは言え、馬素段付き道糸は用意できませんでした。大門峠の乗馬クラブに行けば馬の尻尾は手に入るんですが、なにせ連休中で忙しいんですよ。クラブの皆さんに迷惑をかけられませんしねぇ・・・申し訳ないんですが、フライラインで我慢して下さい。#2のテーパー部を3m程切ってきました。ハリスは0.6号でいいですかね。竿は3.3mです。たぶん楽に毛鉤が飛んでくれる筈ですよ。さあ、始めましょうか。

あの落ち込みの真ん中に岩が頭を出してるでしょう?流れは岩を抱きかかえるようにその両側から落ちて、岩の下に小さな弛みを作ってますね。そう、流れが岩を巻き込んでいるようにも見えますね。毛鉤を岩の上に振り込んで、落ちる流れに任せたまま、弛みまで流してみましょう。毛鉤は弛みを2〜3周すると、下流へ流される筈です。その2〜3周が勝負ですよ。毛鉤が流れを落ちきる瞬間、弛みを2〜3周している間。岩魚は、そんな時に出て来るんです。

ヒュッ、スルスルッ、ポトッ、ツーッ・・・クルッ、シャッ!ほら来た!島々谷らしい、良い魚ですねぇ。この調子で、落ち込みをどんどん狙っていきましょう。

テンカラはね、フライと違ってラインを水面に浸けないで釣るんですよ。水面に落とすのは毛鉤だけです。フライは遠くを釣るので自ずとラインは水面に落ちますが、テンカラはもっと近くを釣るんです。3.3mの竿に3.3mの道糸。ハリスで一尋のバカを作っても、最長で8m前後ですね。けれど、この仕掛けは本流近くの開けた場所でしか使えませんよ。岩魚狙いの山釣りともなれば、頭の上は楢のトンネル、背中には垂れ下がる大木の根、苔生す岩に身を隠しながらの釣りになります。長い仕掛けは振り回せませんねぇ。ですから、3.3mの竿に道糸は一尋、ハリスが40cmなんて仕掛けになっちゃう事もしばしばですよ。最長でも5m前後ですね。道糸を水面に落とさないと言うより、落ちる長さがないんですよ。ヒョイッと投げてツーッと流して、ハイ次の石!とてもテンポの良い釣りですよ。

おや?見て下さい。淵ですよ。いい淵ですねぇ。去年、こんな淵あったかなぁ。三つ並んだ岩の間から二本の白い流れが勢い良く落ちてますね。流れはすぐに落ち着きを取り戻し、沢岸から低く張り出した大きな枝を綺麗に映し出していますよ。あんな影にも岩魚は潜んでいるんです。狙ってみましょうか。滝のように岩の間から落ちた流れは白泡になって、大きな枝の影に向っていますね。白泡の根元から白泡の先端まで、泡の縁を流してみて下さい。泡が細くなって切れた先、張り出した枝の下あたりで岩魚が出てくると思いますよ。ヒョイッと投げてツーッと流れて、毛鉤が緩い流れに出ましたね。ここで来ますよ。ツツツツツツッ、あれ?毛鉤が流れを離れて、手前に引っ張られちゃいましたね。あっ、そうか。「おつり」だ。「おつり」ですよ。いや〜、失敗しました。フライラインを用意した、私の大失敗です。

「おつり」って言うのは、毛鉤がラインの重さで手前に引っ張られることなんです。
テンカラ釣りは、振り込みの後を真横から見ると「へ」の字の形をしています。一番左の先が毛鉤。右に上がって行くのがライン。頂点が穂先。右に下がって行くのが竿ですよ。一番右下の「へ」の字の最後が竿尻です。この時、どんなに軽い仕掛けでも、ラインと毛鉤は地球に引っ張られて、穂先から真直ぐ下に垂れようとしている筈ですね。それを「へ」の字に保っているのが水流なんですよ。水の粘り気が毛鉤に絡み付いて、ラインも一緒に引っ張ってるんですね。

落ち込みや白泡の流れは、力強く毛鉤を運んでくれます。ラインの重さは気にならないですね。綺麗な「へ」の字を作ってくれますよ。ところが毛鉤が緩い流れに出た途端、水の粘り気はラインの重さに負けちゃうようです。ラインは穂先からダラリと垂れ下がり、それに引っ張られた毛鉤は流れを離れて、手前に寄って来てしまうんですね。フライラインは重いラインですからねぇ。「おつり」が出やすいんですね。これは致命的です。まず釣れないでしょう。

魚を釣るって事は、「フィーダーレーンをナチュラルドリフト」させるって事ですよね。アハハ、「食い筋を自然に流す」ですね。いつも食べている餌と同じように流れれば、魚は躊躇することなく、鉤の仕込んである餌を口にしてくれますよ。「おつり」を出して、毛鉤が流れを離れてしまっては、魚に怪しまれてしまいますよね。

いや〜、まいったなぁ。去年、島々谷では落ち込みの釣りばかりだったんですよ。だから、投げ易いフライラインでも大丈夫だと思ったんです。こんな淵があるとはなぁ。大水で新しく出来たのかなぁ。う〜ん、これはリベンジせねば。仕掛けを換えて、来週もう一度来ましょうか。ちょっと飛ばし辛いんですが、「おつり」の出難い仕掛けで釣りましょうよ。