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本沢の乱
2002/11/28

「オォー!入ってる、入ってる。さすがに、連休だわなぃ」
走行距離15万kmを超えた我が愛車「軽トラ四駆スペシャル」の助手席で、師匠クドチャンはご機嫌ですね。見れば、林道沿いの車停はピカピカの四輪駆動車が並んでいますよ。熊谷、多摩、練馬、品川、横浜・・・本沢で釣るために〜そう、あのミソサザイの谷ですよ〜皆さん遠くから来てるんですねぇ。大変だぁ。でもね、私の海釣りも一番近い場所で2時間、遠い所では6時間は当たり前なんですよ。釣り好きって何でこんなに根性があるんでしょうね。嬉しくなっちゃいますよね。
「クドチャン、やっぱ止めらず」
「何、言ってるだぁ。やるっつっただねえか。ここまで来りゃぁ、やったって、やんなくったって同じだど」
「でもなぁ・・・」
「タケチャンっちゃぁ、いっつもこうだ。最後んなってビビんだかんなぁ」
「・・・ヤダなぁ・・・何でこんなんなっちまうだぁ?」

決して不穏な話ではないんですよ。実はね、こんな話なんです。お昼頃の事です。消防団の会合で、クドチャンは朝から茶碗酒を数杯ヤッツケテきたんだそうです。クドチャンの数杯ですからねぇ。たぶん、一升は・・・その足で家に来たんですよ。
「タケチャン、本沢行くど」「エッ?これからかい?」
「そうだで。ヒック(゜_。)?どうせ東京の衆が入ってるだでな。ヒック?(゜_。)後から入って居着きぃ釣っちまうどぉ・・・(゜_。)#@%−$///」こうなったら止められないのが酔っ払いですね。困ったもんです。もう軽トラの助手席に陣取ってるじゃないですか。申し訳ないんですが、チョットだけ付き合ってくれません?

クドチャンの気持ちも分かるんですよ。本沢は、クドチャンが子供の頃からの遊び場なんですね。自転車で通っては、釣ったり探ったり泳いだり・・・二十数年前に亡くしたお父さんのホームグラウンドだったんですね。そりゃあ愛着もあるでしょう。 ところが、数年前から遠方からのお客さんが急に増えたんです。長野オリンピックに伴って、新幹線が開通し、高速道路が敷かれ、観光地が近いこともあって都会からも遊びに来やすくなったんでしょう。雑誌等に紹介されたことも手伝って、連休ともなれば下流域は釣堀のようですよ。師匠クドチャン、どうもそこらへんが気に入らないようですねぇ。

「クドチャン、みんな、せっかく遠くから来てんだで、何もイヤガラセみてぇな事しなくったっていいでや」
「あにがイヤガラセだぁ?オラァタだって年券買ってるだど。何時、何所で釣ったっていいだねぇか」
「うん・・・・ほいじゃぁ、一番上ぇ行かず。林組の作業場の上なら林道が切れてるからお客さんも入ってねぇんだねぇか?」
「いや、ダメだなぃ。今日は下だで。タケチャン、そこに停めれや」
仕方ないですね。品川ナンバーの後ろに停めさせていただきましょう。クドチャンの足元は覚つきませんが、とりえず沢に降りましょうか。

あぁ、気持ちがいいですねぇ。どんな理由にせよ、沢に降りれば生き返る気分ですよ。タラの芽はもう大きくなっちゃったかなぁ。山菜も、もう終りだな。そういえば、林組の上にワサビが自生してたっけ。昔、ワサビ畑でもあったのかなぁ。そろそろ毛鉤にバンバン出て来るよなぁ。連休明けは夕マズメでも狙ってみようかな。

アレレ?私が沢を満喫している間に、クドチャンは寝ちゃいましたよ。ハハハ、調度良いや。今日は釣らずに岩の上でゆっくりしましょうよ。あの大岩の上がいいですよ。ちょっとした窪みがあって、昼寝には最高なんです。横になってみましょうか。 楢の枝が沢の両側からせり出して、屋根のようですね。その向うには空が綺麗でしょう。あれ?あそこ、枝から枝へ飛び回っている小さな鳥が見えますか?コゲラですかね。木の幹に停まっては、らせん状に登っていきますよ。幹が無くなった所で、枝を渡り歩いてますよ。ほら、また幹に降りましたね。この子は一日中、こんな事を繰り返してるんですね。

おや?誰か釣り上がって来ましたねぇ。ほぅ、フライですよ。へぇ、メンディングが上手だなぁ。かなりの手足ですね。メンディングはね、フライには欠かせない技なんですよ。フライはね、テンカラと違ってラインも水面に落とすんです。と云うより、落ちてしまうんですよ。魚から出来るだけ離れて釣ろうとしますからね。実際、魚と距離を取った方が出はいいですよ。でもね、ラインが水面に落ちてるってことは、ラインが川に流されるってことなんですね。毛鉤とラインの重さの違いからでしょうか、ラインは毛鉤より早く流されちゃうんですよ。そうすると、毛鉤がラインに引っ張られて流れに自然に乗ってくれなくなっちゃうんですね。そうなると、その毛鉤は魚に怪しまれちゃうって訳です。そこでメンディングの登場なんです。毛鉤を動かさないように、ラインを上流に跳ね返すんですよ。流れの速い所では、2回、3回と繰り返すんですよ。これができれば、貴方もフライマンってね。

アララ、沢岸で寝ているクドチャンに気付いて、フライマン、驚いてますよ。あぁ、やさしい人なんだぁ。クドチャンを起こしてますね。迷惑をかけてはいけないから、私たちも行きましょう。
「こんちは〜、釣ってますか〜?」
「あっ、どうも。この人、寝てたようなんですが・・・」
「大丈夫っすよ、ウチの連れですから。朝から酔っ払ってるだけっす。それより、どぅっすかぁ?釣ってますぅ?」
「いやぁ、魚影は濃いんですがね、思うように釣れませんよ。この川は、どんなフライが良いんでしょうかね」

ヨシ来た!いらっしゃ〜い!私、こんな風にやさしくて素直な人が大好きなんです。明らかに私よりベテランのフライマンですが、本沢の毛鉤ならまかせて下さいよ。ハックルは何だ、ボディは何だ、テイルは必要か、ウイングなんか要らない・・・ 毛鉤談義になってしまいましたよ。なんと別れ際には、毛鉤を一本づつ交換してましたよ。やっぱり、やさしい人なんですねぇ。
「お宅は、釣らないのですか?」
「はい、今日は酔い覚ましに来ただけっすから」
「それなら、ここから先行させていただいて良いですか?」
「はい、どうぞ、どうぞ。今日は釣らないっすよ」
「では、またお会いできると良いですね」
「はいっ!」

あぁ、良い気分ですねぇ。初対面の人でも、釣りって云う共通項でこんなに温かくなれるんですね。こんな人達の邪魔をしなくて良かったと思いません? あれ?クドチャン、また寝てますよ。今晩は、家にお泊りですかねぇ。
「おい、クドチャン、起きれや。帰ぇるで」
「う〜〜〜ん・・・」

家に帰って、クドチャン寝かし付けて。いやぁ、今日はクドチャンに振り回されちゃいましたねぇ。さて、交換した毛鉤を良く見てみましょうか。交換した時は話に夢中で良く見れなかったでしょう。どれどれ、どんな毛鉤かな?

うわっ!凄ぇ〜!雑誌に載ってるようなパラシュートですよ。綺麗ですねぇ。私、こんな毛鉤を巻いてみたいんですよ・・・あっ、私の毛鉤を渡しちゃいましたよね。うわぁ〜、恥ずかしい。きっと今頃、私のボロキレ毛鉤を眺めながら笑ってるかもしれませんね。まいったなぁ。

あの日のフライマンさん、万が一このページを読んでいただいてたら、是非、御連絡ください。