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苔生す沢
2002/11/06

岩魚の棲む沢は支流の支流、そしてそこに流れ込む小さな流れなんです。林道からも見えないような谷の底にひっそりと流れているんですよ。光と水と風と生き物だけの世界です。独り立ち降りれば、怖い程の静寂感に包まれるでしょう。私にとってその瞬間は私自身を感じる数少ない時なんですね。この沢はそんな沢なんです。地図には載っていますが名前は書いてありませんよ。どうです?降りてみませんか?

いったい私はこの斜面を何度降りたことか。まだ雪が残る早春、水楢がモコモコと葉を広げる夏、禁漁間際の晩夏。朝な夕なに飽きもせず通い続けているんです。この沢は昔キノコを採りながら竿抜けを探している時見つけたんですがね、ホラ、岩は苔生して踏み跡もないでしょう?沢沿いは植林もしてませんし、ましてやゴミなんて・・・

沢は1m程の落差が続いてますね。底石もほど良くありますし、岩魚が棲むには恰好の沢でしょう?でもね、残念ながら秘密の沢なんですよ。師匠のクドチャン、地元名人の宮坂さん、漁協の柳沢さん、たぶん知ってると思うんですがねぇ。この沢が話題に上がったことがないんですよ。私も、ここはカミサンと息子にしか教えていません。私は気に入った沢を誰にでも教えてしまう癖があるんですが、ここだけは特別なんですよ。

何故ってね、「苔」なんです。これだけ立派な苔が続く沢はこの辺りでは珍しいですよ。他にも苔生す沢はあるんですが、踏み跡がスゴイんですね。ポイント近くの苔は、見るも無残ですよ。石の頭は剥げて、もう黒光りしちゃってます。カミサンの話では、この苔が石の頭を覆い尽すには気の遠くなるような時間がかかるんだそうです。釣人は、森や川や海や命を大切にしますよね。だから、釣人が入渓した時は鮮やかなこの苔に目を見張った筈ですよ。こんな綺麗な沢に降りたことを感謝するでしょうね。だけど悲しき性、釣人は魚追い人。魚に夢中になっちゃうんでしょうね。生い茂る苔、その上を忙しくはしゃぎまわるミソサザイ、川筋を飛び去るカワガラス、いつの間にか見えなくなっているのかも・・・

さて、今日は特別、この沢で釣りましょう。川幅は3mもありませんよ。竿は4.5mの渓流竿。糸は0.6号の通しにしましょうか。一尋で充分ですね。毛鉤は16番の「たけぱんスペシャル」でいきましょう。

竿はポイントとの距離に合わせて竿尻から畳むんですが、岩魚から遠い場所で釣った方が打率は上がりますよ。あの底石の脇を流してみようか。水面に毛鉤をチョンと置いたらスーっと流そうね。流れに逆らわないで・・・

シャッ!「ホラ来た!」
「アワセなきゃ。軽く手首を下げる感じでいいんだわ」
「も一度やってみるかい?」チョン、スーッ・・・  チョン、スーッ・・・
「あぁ、もう石に付いちまったなィ。もうダメだわい。次、行こうや」
「あの石、狙ってみるかい?」チョン、スーッ・・・
シャッ!クンッ!「うまい!掛かったでや」
「ここは木が生い茂ってるから竿は上げらんねえぞ!竿を畳んで取り込めや!」

沢釣り、楽しいですよ。今度は鳥の話でもしましょうかね。