依田川の怪
2002/10/26

佐久方面から千曲川を下ると小諸に出ます。そのまま鹿曲川を過ぎると上田に出ます。上田に出た所で左から依田川が入ってきます。 さて、この依田川を釣り上ってみましょう。

依田川下流域はアユ専用の釣り場が多く、私達渓流屋には入り辛いですね。ましてや毛鉤なんて使用禁止ですよ。毛鉤屋さん、気を付けて下さいね。もっと上流にイイ所がありますよ。依田川を上っていくと、最初に出合うのが内村川です。上流には鹿教湯温泉(かけゆおんせん)、霊泉寺温泉(れいせんじおんせん)等の湯治場があるんですよ。湯治場に泊まりながらの遠征釣りもいいですね。

依田川にはツケバがいくつかあります。ツケバと云うのは、アユ料理を食べさせてくれたり、おとりアユが売っていたり、ヤナで落ちアユを捕ったりする小屋なんです。料理屋と釣具屋と漁場が一緒になった小屋、ですかね。知り合いのアユ屋さん達が来れば私もオジャマして夜は大宴会です。そんな夜、飛び出したのが、この話。

「まいったなゃ。出合いの淵に何かいるで。オトリごと持ってかれちまったわい」
「オイもか?オラも昨日3回持ってかれたわ」
皆さん経験済みなようで、話は「淵に棲む何か」で持ちきりでした。
「鯉でも居るんだねぇの?あれは半端な引きじゃなかったで」
「バカ言え。あんな所に鯉なんか居るわけねぇだねぇか。鯉なら千曲だで」
「じゃあ何だっつうだ?」
「・・・」
ウナギ説、すっぽん説、果てや人間説・・・etc お酒の力も手伝って、皆さん好き勝手な事を言ってます。カッパ説で盛り上がっていた頃、我らが大将、ツケバのオヤジ、石ちゃん登場。仕事も終わったらしくコップ持参の登場です。

「あに騒いでるだ?」
斯く斯く云々、酔っ払いの説明を受けたオヤジ。「なんだ。そんな事か」
えっ?そんな事?
「そりゃぁサクラだわぃ。内村の山女魚がサクラんなっただわぃ」
「サクラ?それって、もしかしなくても、山女魚の親分?サクラマス?」
「そうさぁ。上から降りてきて、でっかくなってるど。明日、行ってみるか?」
「行く!行く!」

話は妙な方に発展します。アユ屋さん達もサクラと聞いては黙っていません。
「サクラっちゃぁドバで釣れるかや?」「あの辺は毛鉤使ってもいいだか?」「あすこはアユ専じゃねぇよな。釣ったっていいだに」
アユ屋さん、渓流屋に大変身。もともと、子供の頃からいろんな釣りを経験してる人達なので、十人十色の仕掛けと釣り方が飛び出してきます。
「ほいじゃぁ、明日、早くに行かず」決定!鬼退治ならぬ、サクラ退治釣行が決まりました。

まだ空は紫色です。サクラの淵に到着すると、石ちゃん、もう釣り始めてる。天下の宝刀、「琥珀」が眩しい。やっぱり釣りの上手な人って絵になりますね。おっと、見惚れてる場合ではありません。私も我が愛刀、磯竿スペシャルを出さねば。メジナバージョンに庭先で掘り出してきたドバミミズをセット。「さあ、サクラちゃん、朝ごはんの時間だよ」上流に回り込んで、そっと仕掛けを流します。アユ屋さん達もチラホラやって来ました。

太陽が昇り始めた頃、私のウキが音も無く消し込みました。「よっしゃあ」私は一瞬でヒーローになっていました。ツケバに戻り、品評会です。石ちゃんが1尾。私も1尾。ガングロにでかい口。「これがサクラかぁ。すげぇもんだなぃ」石ちゃんがホイル焼きを作り、昼の宴会が始まりました。

北海道や北陸では、降海型の岩魚や山女魚がいるそうです。陸封された魚達だから、海に降りてもおかしくありませんよね。その習性が、降湖型の魚を生んでいるんだそうです。ダム湖のバックウォーターで良型が出るのはそのせいかも知れませんね。

さて、アユ屋さん達とはお別れして次はもう少し上流へ行ってみましょう。いい所、沢山ありますよ〜〜。では、また。